裁判所に提出した書証をHTML化した。
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令和5年(わ)第28号 汚職調査の妨害に対する国家賠償請求事件
原告 野村 一也
被告 蘭越町、難波修二

準備書面2

札幌地方裁判所小樽支部 民事合議係 御中
2023(R5)年8月2日
原告 野村一也

原告は、被告らが提出した準備書面1中、第2の2について、反論する。

一 反論の概要

第1 請願(あるいは陳情)の目的と処理の区別について

  1. 被告難波らは「請願は、(中略)その内容が所管の官公署に伝わることにより、ひとまず請願の目的は達成されるものと解されており(以下省略)。」と主張する。しかしながら、被告らの主張は、法や判例に基づいたものではない。
  2. なお、原告は、請願・陳情の存在理由を、住民の代表機関たる議会が、地方自治法第98条の規定する検閲・検査・監査の対象となる事案の端緒を民主的に受理する機会であると理解している。
  3. 事実、請願法第5条は、受理した官公署が誠実に処理することを定めている。
  4. そこで原告(以下「原告」のほか「陳情人(原告)」または「陳情人」と示す)は、原告が陳状人として蘭越町議会に提出した陳情に対し、被告難波が誠実さを欠いた処理をした、と評価されるべき理由を、主張する。

二 当該陳情の内容

第1 表紙(カバーページ)の内容と経緯
陳情人は、次の内容をカバーページとし、別添文書を含めて1枚のメディアディスクに記録した陳情を蘭越町議会に提出した。≪甲57585960

チセヌプリスキー場の売却にかかる入札談合行為と背任疑惑の真相究明を求める陳情書

2021(R3)年2月12日

蘭越町議会議長 冨樫 順悦 殿

甲 陳情者

北海道磯谷郡蘭越町富岡1035-3

野村 一也

電話番号 090-4836-4467

チセヌプリスキー場の売却にかかる次の不正疑惑の究明を陳情する。

  • 1回目公募に唯一応募し、譲渡を前提とした協議をおよそ半年間続けていた企業に対し、蘭越町職員らは、非常識かつ高圧的な対応をすることによって、破談を誘導した。
  • 2回目公募を不適切な時期に実施することによって、応募者なしの実績を作り、それを大幅値下げの材料とした。
  • 3回目公募において、選定が公正に実施されていない。
  • 売却先企業が公募時の提案内容と異なる事業を行っているにもかかわらず、蘭越町はそれを容認している。

上記の疑惑は、入札談合等関与行為(入札談合等関与行為の排除及び防止並びに職員による入札等の公正を害すべき行為の処罰に関する法律第2条第5項)と背任(刑法第247条)に抵触している可能性がある。当局の捜査の有無にかかわらず、地方自治体自らが向き合うべき問題として、蘭越町が対処することを求める。

別添

一連する問題の要覧

陳情趣意書

QR コード

証拠説明書

証拠(1号証から42号証まで)

なお、本陳情情書および別添文書はインターネット上に公開する。

第2 陳情趣意書の構成

  1. 陳情の件名に「入札談合行為と背任疑惑」が含まれているとおり、陳情は、刑事告発を 想定したものである。町職員らによる経済犯罪の可能性を指摘するにあたって、A4サイズの紙1枚に収まるはずもなく、陳情は、要覧である陳情書、陳情本体である陳情趣意書、それから、証拠と証拠説明書で構成した。
  2. 陳情人が、陳情書と陳情趣意書を分けたのは、A4サイズ1枚にこだわる当時の事務局長の求めに応じたものである。求められても、A4サイズ1枚には収まらないので、要覧を追加し、それに「陳情書」を冠し、本来の陳情書を「陳情趣意書」とした。
  3. 「趣意書」の使い方は、控訴審において、「控訴状」が単なる意思表示、「控訴趣意書」に具 体的な控訴理由とその内容が示されることのほか、一体となる別文書が存在することを示す文書名として一般的である。
  4. そして、陳情人は、「陳情趣意書」が別添されている ことを「陳情書」に明示している。
  5. 以上の通り、当該陳情(本陳情)において、「陳情書」と「陳情趣意書」、それから証拠と証拠説明書が不可分であることは、誰の目にも明らかである。

三 当該陳情の審査経緯

第1 蘭越町総務文教常任委員会の審査プロセス

  • 2021年6月30日13:28-15: 05、陳情人に対する陳情調査≪甲43
  • 2021年7月21日13:30-15:15、山内副町長に対する陳情調査≪甲44
  • 2021年7月21日16:35-16:50、総務文教常任委員会における議事≪甲44
  • 2021年9月2日、総務文教常任委員会における議事≪甲45
  • 2021年9月15日、総務文教委員会は、陳情の不採択を議会に報告した。≪甲66
  • 2021年9月21日、町議会は「陳情の審査結果について」を陳情人に送付した。≪甲51
  • 2021年11月、町議会は議会だよりNo.184に審査結果全文を掲載した。≪甲66

第2 被告難波らによる当該陳情の審査方法の問題

  1. 委員会の公開ないし透明化に対する事前協議の問題≪甲50
  1. 開催期日前、陳情人は、委員会の公開を求めたが、委員会は拒否した。
  2. 開催期日前、陳情人は、自分が説明する様子を動画に記録することを求めたが、委員会は拒否した。
  3. 開催当日、陳情人は、公平性を保つために、委員会が録音するなら、陳情人も録音することを求めたが、委員会はそれを拒否した。
  4. 陳情人は、法律家でなければ理解困難な部分が陳情に多くあることから、委員会が弁護士を手配し、説明に参加させることを、議会事務局に求めたが、委員会は拒否した。
  1. 被告難波らは、陳情人調査において陳情人の発言だけを制約した。≪甲43
  1. 委員会は、陳情人の説明に30分しか与えず、延長を求める陳情人の要求を頑なに拒んだ。
  2. 陳情人の説明後、永井議員は、刑事訴訟の基本的なことさえ知らずに、ただの誹謗中傷だ、裁判所に行くべきだ、といった主張を繰り返した。
  3. 難波委員長は、永井議員の独演を許す一方、永井議員に対する陳情人の反論を一方的に制止し、陳情人調査を終了させた。
  4. 2021年7月8日、陳情人は、蘭越町議会に対し、上申書≪甲50≫で謝罪を求めた。
  5. 同年8月3日、富樫議長と難波議員は、上申書に文書≪甲65≫で回答した。
  1. 委員会の議事録≪甲45≫には、陳情趣意書に書かれた内容を審査した記述がない。
  1. 陳情人および山内副町長の説明と質疑応答を除けば、委員会の議事は、7月21日の16:35-16:50、たったの15分に過ぎない。その15分の議事で難波委員長が答申案をひとりで作成することを提起し、それで終了した。
  2. 9月2日は、総務文教常任委員会のなかの一議題として扱われている。そこで難波委員長は、審査結果を自身で書き起こすことを提案した。
  3. 唯一、踏み込んだ議論が記録された連帯保証人の件については、山内副町長が陳情調査において説明したことを受けている。
  4. なお、陳情人の控訴趣意書≪甲58≫において、連帯保証人以前の選択肢として転貸が可能であり、本来そうすべきであったことについて、証拠を添えて説明している。

陳情趣意書≪甲58≫より各段落のタイトルのみを抜粋

8. 北海道(後志振興局森林室)への責任転嫁

ⅰ 転貸等の禁止の条文には、「甲の承認を得ないで」転貸することができないと示されているに過ぎない。

ⅱ 北海道と蘭越町との道有林野賃貸借契約は、更新ではなく、1年毎の再契約なので、事前協議を前提にすれば、再契約時に契約内容を変更することが可能。

ⅲ 実際、北海道が転貸を認めたケースが存在する。

しかしながら、被告難波らは、陳情趣意書の内容を審査しておらず、審査結果でも触れられていない。そして、山内副町長の言葉だけを理由に結論につないでいる。

  1. 被告難波が書き起こした「陳情の審査結果について」≪甲48
    「陳情の審査結果について」に審査理由として書いてあることは、山内副町長に対する陳情調査における山内副町長の言葉の引用に過ぎない。また、陳情人が提出した証拠および証拠に基づく問題提起についての評価は、何ら含まれていない。以下、具体的に示す。

4の1 1回目応募企業に対し、非常識かつ高圧的な対応により、破談を誘導したとの指摘について
審査結果は、山内副町長に対する陳情調査における山内副町長の言葉を採用しているが、採用した理由が添えられていない。さらに具体的に示す。

  1. 陳情人が陳情趣意書に証拠を添えて示した以下の事実はまったく評価されていない。
  1. 連帯保証人以前の問題として、転貸か、それとも賃借権譲渡なのかが、UTグループに示されなかった。
  2. 山内副町長が「できない」と主張する転貸は、上述した三の第2の4の(4)に示した通り、可能であった。
  1. UTグループとの面談における対応記録≪甲41≫において、宮谷内町長と山内副町長(当時総務課長)が発した高圧的な言葉が記録されている。そして、陳情人は、被告難波らの面前で、 次のスライドを見せながら説明した。 また、議会事務局の議事録≪甲43≫には、陳情⼈が説明した⾔葉も記録されている。以下、当該箇所を抜粋する。
    左側10月18日に、10月18日にUTホールディングスの社長が蘭越町まで来て、町長らと打ち合わせをしています。その時の議事録が出てきたので、そこからの扱粋です。この中で宮谷内町長の言葉が上の二つのブロック右側、上から二つ自の、一つ目、二つ自のブロック。1番下がUTホールディングスさんの言葉です。 ちょっと細かく見てほしいのがあります。町長がそれはお宅たちの会社の都合で言ってるけれど、うちの方はそんなの関係ないんだから。総務課長が言ったように、それをこうだああだというふうなことであれば、これは最初から契約が無かったものとして、我々も議会に報告するし、次の候補も来ているんだろう。あんたたちでなくたっていいんだよと、ものすごく失礼なね、言い方をされている。僕は逆に・・・だったらね、本当に怒ってテーブルをひっくり返して帰るぐらいのね、失礼な言い方をねしている。面と向かつて、3人がかりで、町長と副町長と山内総務課長と。これはちょっと・・・に聞こえるかもしれませんけれども、全部本当にね、音声記録じゃないや、記録は見えるようにしてあるんで、ご興味があれば見てください。

委員会の審査は、これら陳情⼈の証拠や説明にいっさい触れることなく、副町⻑の⾔葉を採⽤している。そうした審査の手法が公正さに⽋けていることは、誰の目にも明らかである。

4の2 2回⽬公募を不適切な時期に実施し、応募者なしの実績を作り⼤幅値下げの材料としたとの指摘について

  1. 委員会は、副町⻑は年末年始を含む短い期間でも1社の応募者があったとの説明を採⽤し、短期間であるものの、妥当な判断であったとしている。しかし、年末年始の短期 間で1社の応募があったなら、年末年始以外にもっと期間をとれば、より多くの応募者が現れると推測するほうが、より⾃然な評価である。
  2. ⼤幅な値引き(8割引)の根拠は、何ら⽰されていない。
  3. なお、7⽉21⽇の⼭内副町⻑に対する陳情調査の議事録によれば、⼭内副町⻑は、会計上の固定資産としての残存価格だけで売却額を正当化している。周辺相場の検討は為されていない。また、国定公園内で独占的な事業を⾏い得る賃借権の価値は認識さえできていない。

4の3 3回⽬公募において、選定が公正に実施されていないとの指摘について

  1. この項については、ただ、表⾯的な事実を並べ、「⼀連の作業は公正適切であると認められます」とされているに過ぎない。何ら理由は添えられておらず、公正さのかけらさえ存在しない。
  2. 理由を添えずに「選定が公正に実施されていないとの指摘はあたらない」と断定する⼀⽅、証拠を添えた陳情書上の指摘に対する評価は⼀切ない。
  1. なお、蘭越町がJRT以外の提案内容を⾮開⽰とした⼀⽅、蘭越町情報公開審査会は陳情⼈の審査請求を認め、蘭越町に開⽰を求めた。そして、蘭越町が開⽰した最終選考提案によれば、3社のうちリフトの再開を仄めかしたのは、採⽤されたJRTだけであった。≪甲53

4の4 売却先企業が提案内容と異なる事業を行っているとの指摘について

陳情人が陳情書の箇条書きの最後となる4番目に記した内容は、次のとおり。

売却先企業が公募時の提案内容と異なる事業を行っているにもかかわらず、蘭越町はそれを容認している。

一方、審査結果は、この指摘に触れていない。そして、リフトの架け替えに話しをすり替えて回答している。

なお、陳情人は、陳情書の4番目に記した内容の問題について、陳情趣意書において、より具体的に記している。

JRTが実施している事業については、次の問題がある。

  1. 主たる事業として提案したスキーレッスンは実施されていない。
  2. 早朝限定であったはずのCATスキーは、極めて少人数を客とする全山終日貸切り型の運用がなされている。

(3と4は省略)

つまり。提案された事業が行われず、提案にない事業だけが行われることによって、地域振興どころか、来訪さえ敬遠される事態が引き起こされている。これは売却価額の不当引下げとは別の損害である。

甲22≫≪甲23≫に示した通り、金秀行と山内勲は、JRTが提案と異なる事業を行うことを容認するばかりであった。金秀行と山内勲には、蘭越町に損害を与えた上、さらに現状を容認する『特別な事情』があるようなので、その調査を併せて求める。

陳情人は、陳情書だけでなく、陳情趣意書においても、上記の指摘を最後段に配置した。それは、陳情全体の構成として、最も重要であることを示すためである。その疑惑が事実に基づいている証拠として、陳情人は町長と副町長の取材記録をテキストと動画付き音声で示している。≪甲2223≫それを黙殺して、リフトの架け替えの話しにすり替えて回答した蘭越町議会の審査結果は、論理的には悪辣、社会正義の面において不公正、道徳的には不誠実であると言わざるを得ない。

四 地方議会の存在理由に対する原告の所感

  1. 蘭越町に限らず、すべての地方自治体は二元代表制を採っている。その目的は、抑制と均衡によって緊張関係を保ちながら、議会が執行機関と対等の機関として、自治体の運営の基本的な方針を決定し、執行機関を監視することにある。
  2. 議会には、執行機関を監視するための権限として、調査権、監査権、そして、不信任議決権が地方自治法に規定されている。これらは、刑事訴訟法とは別の体系にある。それゆえ、永井議員がアピールした「(陳情人は議会でなく)裁判所に行くべき」という主張は失当である。それを文書で上申した、陳情人の上申書に対し、蘭越町議会も議会が執行機関を監視する権限があることを理解していないことを示している。
  3. なお、全国の市町村議会を見渡せば、本会議や委員会に出席するだけでなく、議事以外の時間で、公金支出やその他の不正を監視する議員は少ないながら存在する。
  4. 陳情人(原告)がなした陳情は、本来、町議会または町議員がなすべき公有財産の処分にかかる執行機関の不正監視を、町議員に代わって陳情人が無報酬で行い、それを議会に報告しているものである。
  5. 陳情人が蘭越町議会に提出した陳情書は、客観的な証拠で組み立てており、証拠の収集とその整理、そして陳述書を書く作業を合計すると、軽く400時間を超える時間をかけたものである。
  6. 総務常任委員会は、陳情説明において説明時間の不足を求める陳情人の要望を拒絶した。そして、陳情書の評価をわずか15分の議事ですませ、難波議員がひとりで結論案を書いた。そして、議会に答申された「陳情の審査結果について」は、陳情本体である陳情趣意書をまったく検討していないのみならず、4においては、表紙である陳情書の内容さえも無視した内容となっている。
  7. 陳情を審理する具体的な手続きについて、何ら規定がないので、例規に反しているとは言えない。しかしながら、議会の審査結果は、陳情人が提出した陳情本体である陳情趣意書を参照せず、添付した証拠を評価せずに結論を結んでいる。また、客観的事実に照らした箇所も見られず、論理的に杜撰である。
  8. 住民の代表機関としての重要な役割を有しているはずの蘭越町議会が、論理性も公平性も欠いた審理を行ったことは、請願法5条の定める「誠実に処理」からはかけ離れた処理であることは、誰の目にも明らかである。
  9. 以上