裁判所に提出した書証をHTML化した。
小さな画面でも読みやすく、PDF版よりリンクの挙動が安定しています。
訴状へのリンクは、原告の補正と被告らの認否が示されたHTMLファイルへのリンクとした。
事件番号 令和6年(ネ)第64号
国家橋用当請求控訴事件
控訴人 野村 一也
非控訴人 蘭越町 外1名
控訴理由書
2024(H6)年4月30日
札幌高等裁判所 第3民事部1係 御中
控訴人 野村 一也
上記の事件について、控訴人は、次のとおり控訴理由を提出する。
- 第1 控訴の理由 2
- 1 第一審の事実認定手続きには瑕疵がある 2
- 2 原審裁判体は、控訴人の弁論機会を理由なく制約した 3
- 3 蘭越町議会の被告不適格について 5
- 4 違法性の評価方法について 6
- 5 不服申立制度による瑕疵の是正について 7
- 6 秩序維持制度の欠落について 9
- 7 背景事情と町職員らが行為に至る動機が評価されていない 10
- 第2 結語
第1 控訴の理由
- 控訴人は、民事訴訟規則第53条1項と2項に準じて、訴状第2(請求の背景)および第3(汚職調査により判明した事実)における蘭越町職員らの言動に関する項のほとんどの「請求を理由づける事実」に、証拠として、音声記録と反訳、または公文書等を記載した。
- 民事訴訟規則第79条3項において、「準備書面において相手方の主張する事実を否認する場合には、その理由を記載しなければない。」と規定されているにも関わらず、被控訴人ら弁護人は、準備書面1において、理由を記載せず多くの否認を行った。
- 札幌地方裁判所小樽支部(以下「地裁小樽支部」という)の大倉靖広を裁判長とする裁判体(以下「原審裁判体」という)は、訴状第2および第3に対し、被控訴人ら弁護人が否認、否認ないし争う、または、評価を争うとした項目について、被控訴人ら弁護人にその理由を求めることはなかった。そして、被控訴人ら弁護人が、準備書面1第2において取り上げた事項、または、次に挙げる判決に別紙として採用した甲号証を除き、事実認定の対象外とした。
(4)被控訴人ら弁護人が、準備書面1において、理由を添えず否認、否認ないし争う、または、評価を争うとされた項目のうち主要なもの。
- 訴状第3の39(事業譲渡契約書の弁護士相談)
- 訴状第3の59の(1)から(3)(相対での取材記録)
- 訴状第3の62(金秀行の根回し)
- 訴状第4の3の(5)のアからウ(陳情における陳述調査)
- 訴状第4の4の(2)のアからカ(副町長室での質問)
- 訴状第4の4の(8)のアからオ(文書開示方法への質問)
- 訴状第4の4の(11)のアからウ(山内勲との面談)
(5)準備書面2と3については、後述2の(2)と(3)に記載のとおり、事実認定手続きに至っていない。
(6)控訴人は、訴状、訴状補正書および訴状第5の2を補足した準備書面1、ならびに、被控訴人ら準備書面1に記された認否状況を、HTML形式で一覧できるようにし、それを下に示すURLで公開している。裁判の公然性を確保することが目的であるが、控訴人の「請求を理由づける事実」の証拠をハイパーリンクで容易に表示できるようにしてあるので、参照されたい。
- 控訴人が被控訴人らの不法行為を立証するためには、膨大な文書と音声記録を整理する必要があるにも関わらず、原審裁判体は、第2回弁論において、第3回弁論までにすべての主張を終わらせるよう求めた。≪甲205‐1(音声記録抜粋)、-2(反訳)≫
- 第2回弁論において、原審裁判体が被控訴人ら訴訟代理人と調整した9月13日の第3回弁論の開催に対し、控訴人は、第3回弁論までに可能な限り主張をまとめるつもりで同意した。
- その後、控訴人は、本件訴訟の特異性から主張書面の作成に時間がかかることから、次回期日までに主張をまとめることが困難と判断し、地裁小樽支部書記官阿部知央に次回弁論期日の延期を相談した。
書記官阿部知央は、9月4日までにすべての主張が終わらなければ、次回で弁論終結となる可能性があることを控訴人に伝えた。 - 控訴人は、原審裁判体に対し、8月4日付けの期日変更申出書で、第3回弁論の期日変更を依頼した。
- 書記官阿部知央は、控訴人に対し、原審裁判体が期日変更を認めなかったことを、電話で伝えた。
- 控訴人は、9月4日までに主張をまとめることができないまま、9月13日の弁論に臨んだ。そして、原審裁判体の求める内容をまとめるためには、さらに2カ月を要することを述べた。
- 原審裁判体は、第4回弁論期日として、12月6日を設定した。
(2) 原審裁判体は、控訴人に十分な弁論機会を与えないまま、弁論を終結させた。
- 第2回弁論当日に、控訴人は、準備書面2を提出した。
- 第4回弁論までに、控訴人は、準備書面3を提出した。
- 準備書面3の第4の17の(1)から(3)において、控訴人は、「第5回弁論までに提出する」と明記していた。
- 第4回弁論において、原審裁判体は、控訴人準備書面2と3を弁論したものとして扱い、そして、弁論の終結を宣言した。
控訴人は、主張の立証が終わっていないことから、さらなる弁論機会を求めたが、原審裁判体は、控訴人の求めに「認めない」と答えるだけで、弁論を終結させた。
(3) 原審裁判体は、理由なく控訴人準備書面2の陳述を遅らせた。また、控訴人準備書面2と3の双方について、事実上、審理の対象外とした。
- 控訴人は、令和5年8月2日付けで準備書面2を提出したにもかかわらず、原審裁判体がその陳述を控訴人に許したのは、弁論最終日の令和5年12月6日である。
- 原審裁判体は、準備書面2と3について、被控訴人らに何ら認否・反論を求めておらず、判決においても、何ら触れていない。
(4) なお、控訴人は、主張の立証を、次の順番で続ける予定であった。
- 準備書面3の第4の17の(1)から(3)に記した事実の立証
- 被控訴人ら弁護人が、準備書面1第2(請求の原因に対する認否)において、否認、否認ないし争う、または、評価を争うとした項目対する反論
- 蘭越町議会の被告不適格について
原審裁判体は、被控訴人らの主張を超越する判決をする一方、控訴人の主張書面(準備書面2)を、事実上、審理の対象外とした。
- 控訴人は、補正前の訴状において、被告人を蘭越町と蘭越町議会とした。
- 札幌地方裁判所岩内支部は、控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求において蘭越町議会が被告適格を有しないことを、令和5年4月7日付け事務連絡で通知した。≪甲206≫
- 控訴人は、訴状補正書において、被告人を難波修二に補正した。これは、蘭越町議会が被告適格を断定するので、それに代えて蘭越町議会の筆頭者にしただけの単純な判断であった。また、当時の議長の退任が決まっていたことと、難波修二が控訴人の陳情を諮問した総務文教委員会の長の任にあったからである。
- 控訴人は、準備書面1第5の6において、蘭越町議会の不法行為を主張した。
- 被控訴人ら弁護人は、準備書面1によって、以下を主張した。
- 請願は、国又は地方公共団体の機関に対して希望を述べることを保障する制度で、あって、その内容が所管の官公署に伝わることにより、ひとまず請願の目的は達成されるものと解されており、同法は、請願を受理した官公署に対して、請願者にその処理の経過や結果を告知する義務までを負わせるものではない。
原告の主張を前提としても、被告難波が原告の法律上保護される権利利益への違法な権利侵害を行ったもので、はなく、主張自体失当である。
(6) 控訴人は、被控訴人ら準備書面1に反論するため、準備書面2(令和5年8月2日付け)を提出した。
(7) 原審裁判体は、控訴人の準備書面2の陳述を、第3回弁論(令和5年9月13日)に陳述させず、弁論終結となる第4回弁論(令和5年12月6日)に陳述させた。弁論終結日なので、原審裁判体は、控訴人の準備書面2に対する被控訴人らの反論は求めなかった。
- 準備書面2に対する弁論が継続していれば、控訴人は補正後も被告不適格が存在することに気付いた可能性があった。
- 原審裁判体が準備書面2の陳述を遅らせ、事実上、審理の対象外としたことにより、控訴人は、さらなる補正の機会を失った。
- 原審裁判体は、被控訴人らの主張内容を超越する判決文を書いた。
(8) 原審裁判体は、被告不適格を理由とした判決をした。判決文は、控訴人が準備書面2で主張した内容については言及していない。
(9) 被控訴人は、訴状第4の3(蘭越町議会に対する陳情)に示した事実について、準備書面1第5の6において難波修二の責任として主張した内容を、蘭越町の責任に補正することを上申する予定である。
- 違法性の評価方法について
本件訴訟は、権力者の汚職調査が背景にあり、蘭越町職員らが控訴人に発した個別発言それぞれの違法性のみで審理されるべきでないことを、準備書面3の第2において、控訴人が主張したにも関わらず、原審裁判体は、判決のほとんどを個別発言それぞれの違法性で評価した。
- 訴状第2(請求の背景)1から66に示したとおり、控訴人は被告蘭越町の不法行為を裏付ける調査をしていた。これは、権力者の汚職調査であり、公益目的であることは明白である。一方、被控訴人ら行為は、公益目的で存在するはずの組織の構成員らが、公益目的の為される汚職調査を妨害するものである。
つまり、控訴人と蘭越町職員らとの行動理由には、正義の有無において大きな開きがあり、個別発言の違法性のみで評価されるべきでないことは明白である。 - 控訴人の知る限りにおいて、単なる名誉毀損の類で争われるケースは、原審裁判体が為したように、個別発言を羅列させ、其々の違法性を評価することによって審理されている。しかしながら、本件訴訟における蘭越町職員らにおいては、嫌がらせレベルの行為であっても、それを繰り返すことによって、行動目的の達成、つまり、控訴人の汚職調査を断念させることが可能である。
それゆえ、蘭越町職員らによる個別発言の違法性を評価しても、被控訴人らの組織的な不法行為を正しく評価することは不能であることは明白である。 - 蘭越町職員らによる取材妨害には、以下のとおり、違法性の立証が困難な方法でも為されている。
- 控訴人の質問に対する回答拒否。
- 控訴人の依頼に対する不履行ないし放置。
- 控訴人の質問や依頼に対するはぐらかし。
- 控訴人への人格批判や嫌味。
- 非紳士的な言動を繰り返すことによる威圧。
- 上記の取材妨害は、複数の職員が揃って、あるいは、場を変えて繰り返し行うことによって増長された。
(4) 被控訴人は、蘭越町に対する汚職調査を現在も続けている。また、蘭越町職員らの取材妨害は、現在も続いている。
- 原審裁判体は、控訴人準備書面3で被控訴人らの不法行為として掲げた威力業務妨害について、判決は、「国家賠償法1条1項上の違法性が認められるためには、瑕疵の是正を専ら不服申立制度によるべきものとすることが不相応であると解されるような特別の事情が必要というべきである。」と判断した。
- 一方、控訴人は、訴状第4(請求の原因)の2に示したとおり、チセヌプリのプロポーザル公募に関する審査請求(以下「既遂の審査請求」という)を実施している。
- そして、控訴人は、訴状第4の4に示したとおり、蘭越町に対し、別の公文書開示を求めた。
- 準備書面3の第2に示したとおり、蘭越町職員らは、控訴人の文書開示請求に対し、法と条例と蘭越町情報公開審査会の答申に反した事務を行った。
- 準備書面3の第4に示したとおり、蘭越町職員らは、説明責任と情報公開の概念に関する知識が不十分であった。また、情報開示事務おいて、違法ないし不法あるいは不適切な方法での対応を繰り返した。
- 準備書面3の第4の2から8に示したとおり、工藤信也および今野満は、法に依らない方法で、控訴人の請求を退けた。
- 準備書面3の第4の9の(4)に示したとおり、山内勲は、蘭越町情報公開条例の内容を理解せずに部下に指示等をしていた。
- 準備書面3の第4の12から15に示したとおり、今野満は、開示決定通知書の請求内容欄を改ざんした。
- 以上のとおり、蘭越町は、不服申立制度以前における、開示請求事務段階において適切な事務を行っていない。
- 情報公開制度において、不服申立制度による瑕疵の是正は、不開示決定の是正にあることに疑いはない。
開示請求段階において、執行機関が、違法ないし不法あるいは不適切な方法で、開示請求を拒絶しようとした場合、不服申立の前段階たる開示そのものが実施されない可能性が発生する。
それゆえ、不服申立制度の存在そのものが、すわなち、瑕疵の是正に有効でないことは明らかである。
(6) 訴状第4の2の(13)に示したとおり、山内巌は、審査請求の成果物である答申の内容を理解していなかった。
(7) 控訴人は、上記の事実と既遂の審査請求により、不服申立制度が瑕疵を救済しないことをはじめ、以下のことを学習した。
- 蘭越町は審査請求の結果を学習しない。
- 妥当性を欠いた不開示が少し公開されるが、半年もの時間を失う。
- 権力者らの説明責任は、不服申立制度の存在によって、免責されるものではない。
- 控訴人が蘭越町議会に請願を提出したのは、蘭越町を監視する機能を担う責務に期待してのことであった。その処理が極めて杜撰であったことにより、蘭越町議会に監視機能はない、と指摘せざるを得ない。
- ちなみに、情報の公開に関する法律を所管する総務省は、審査請求の数は統計しているものの、その傾向を分析して、法第5条各項の規定する「不開示情報」の判断を普遍的合理的に実施させるための作業を一切おこなっていない。その結果、「不開示情報」の判断は、実施機関の判断任せとなっている。
- ついでに言えば、公正取引委員会は、入札談合関与防止法の啓発パンフレットを作成し、公共団体等に配布している。しかしながら、公正取引委員会は、独占禁止法を運用するために設置された機関なので、官製談合(入札談合関与防止法に基づく、いわゆる「縦の談合」)の調査は行っていない。行っているのは「横の談合」だけである。
- さらに言えば、控訴人は倶知安警察署の捜査に期待しておらず、実際、倶知安警察署は蘭越町の汚職事件の捜査に消極的である。なお、倶知安警察署は、時効に余裕のある公務員職権濫用罪の告発部分を受理する理由としたことを添えておく。
- これまで、報道機関に対しては、権力監視の役割が求められてきた。しかしながら、メディアの多様化によって、広告と購読料等で運営される報道機関の限界が指摘されている。
- 以上のとおり、控訴人が本件国家賠償請求をしたのは、公金の使途の選定や公有財産の処分における公務員の経済犯罪を抑止する制度の欠落を補完する意図があった。
- なお、控訴人は、日本中の公的機関において、同類の経済犯罪が蔓延していることを危惧している。また、報道や警察が、膨大な手間がかかる経済犯罪を扱おうとしない傾向があることに対し、強い危機感を持っている。
- 本件訴訟は、国家賠償請求の体裁としているが、公務員の経済犯罪を抑止する制度の欠落を埋めるためには、本訴訟のような方法しかないと控訴人は思っている。しかしながら、本件訴訟のように、無報酬で膨大な手間をかけ、公務員の経済犯罪を追及する者が、他にも存在するとは思えない。それゆえ、公務員の経済犯罪を追及する者が犯罪事実を明らかにした場合、相応の報酬を支払う制度を創設するか、あるいは、懲罰的損害賠償を認めるなどして、報道機関等に動機付けをしなければ、公務員の経済犯罪は抑止されないと思料する。
- 控訴人は、訴状第2(請求の背景)1から66に記した内容と被控訴人ら準備書面1における認否によって、少なくとも蘭越町の背任罪または公務員職権濫用罪を立証するに足る材料が存在すると考えている。
- 原審裁判体は、控訴人の調査結果には何ら言及することなく、被控訴人らの調査妨害のみを、一般的な名誉棄損事件と同様に扱っており、被控訴人らが、様々な方法で控訴人の取材を妨害した動機については何ら触れていない。
第2 結語
以上のとおり、原審裁判体による裁判進行の手法には瑕疵があると言わざるを得ない。また、原判決は、公益目的の汚職調査とその妨害という事案の背景を全く考慮せずに事実認定を行っている。さらに、その評価方法は、一般的な名誉棄損事件で為される手法、つまり、社会的な評価が毀損されたかどうかのみに限定されている。
公権力の監視は、知る権利、ひいては民主主義の根幹である。そして、地方における公権力の監視は、新聞社と雑誌社よりも、地域団体や地域の有志が主体となって行われている。そして、控訴人の汚職調査は、職業ジャーナリストと同等以上の精度で実施され、その結果、少なくとも背任罪および職権乱用罪の立証に十分な証拠を提示していると思われる。なお、時効は訴追事務のルールに過ぎず、時効によって罪が消えるものではないことは明白である。
そして、本件訴訟で、控訴人が告発状と同等の証拠を添えた上で事実説明をしたのは、本件訴訟が一般的な名誉棄損事件とは異なることを立証するためである。
事実認定に瑕疵があり、事実の評価を矮小化してなされた原審判決は、著しく正義に反しているものであるから、取り消されるべきである。
なお、控訴人は、準備書面3において、被控訴人らの不法行為を威力業務妨害罪として主張したが、控訴審においては、公務員職権濫用罪としての主張を加えたい。
以上