付審判請求書

札幌地方裁判所小樽支部御中

北海道磯谷郡蘭越町富岡1035-3

請求人(告発人) 野村一也

付審判請求書

2023年3月27日付け告発状および同年5月15日付け告発補充書(ふたつを合わせて以下「当該告発」という、また、各々を単に「告発状」および「告発補充書」と記す)に対し、令和6(2024)年7月12日付けで札幌地方検察庁岩内支部が決定した不起訴処分のうち、一部に対し、刑事訴訟法第262条1項の規定に基づいて裁判所の審判に付することを請求する。なお、請求人(告発人)が告発状においては、捜査権のない一般人には証拠を添えることが困難であるがゆえ、告発状第1の9にて消極的な記述に留めた。その結果、検察は、受託収賄を処分の対象にさえしなかった。本付審判請求においては補足を加え、加重収賄としての付審判を求める。

第1 本請求の対象と請求人の意図

  1. 請求人(告訴人)が倶知安警察署に告発した蘭越町営チセヌプリスキー場の譲渡を背景とした一連の汚職事件に対し、小樽地方検察庁が決定した不起訴のうち、次の6つに対し、不審判を請求する。
    1. 宮谷内留雄(前蘭越町長)の加重収賄
    2. 金秀行(現蘭越町長)の加重収賄
    3. 山内勲(現蘭越町副町長)の加重収賄
    4. 富樫順悦(前蘭越町議会議長)の公務員職権濫用
    5. 難波修二(現蘭越町議会議員)の公務員職権濫用
    6. 永井浩(現蘭越町議会議員)の公務員職権濫用
  2. 付審判請求は、検察の不起訴処分に対し、告発者らが事件を裁判所の審判に付するよう請求する制度である。請求人の知る限り、付審判請求の対象が公務員の汚職の罪等に限定されているのは、一定の権力を持ち、高潔さが求められる公務員らの犯罪を見逃さないことによって、国民の司法に対する信用を担保しようとする制度のようだ。
  3. ただし、付審判請求の認容率は極めて低く、2023年までに認められた件数は22件に留まる。その認容率は、わずか0.07%に過ぎない。統計値からみれば、本請求が認容される確率は、ほぼゼロである。それでも請求人が付審判を請求するのは、公務員の犯罪を民主的に指摘することが絶望的であることを記録に残すためである。本請求を当世の裁判所が認容しなかったとしても、請求人はその記録がいずれ迫られる司法制度の抜本的改革の呼び水となると期待する。
  4. なお、第4に示した警察官らによる犯人蔵匿等(刑法103条)および証拠隠滅等(刑法104条)、特別公務員職権濫用(刑法194条)の疑いについては、別途、札幌地方検察庁に対し、告発状を提出する。

第2 告訴状の対象部分

  1. 先ず、請求人が告訴状第1の9の記載した内容を次に示す。

    9. 告発人は、上記の被告発人らにつき、厳正な捜査と厳重な処罰を求め、告発する。なお、犯罪傾向として、背任、競争入札妨害、公務員職権乱用を犯す公務員は、受託収賄(刑法第197条)を背景として犯行に及ぶものである。しかし、捜査権のない告発人には、贈収賄の証拠を得ることはできない。それゆえ、犯罪捜査規範第68条1項二号に従って厳正な捜査をすることを求める。

  2. なお、請求人(告訴人)が告発状第1の1から8までの各項と異なる表現を選んだのは、告発状において、贈収賄の直接証拠を提示していないからである。
  3. 札幌地方検察庁は、告発状第1の9による受託収賄罪を被疑事件として処分の対象としていない。しかし、告発人の意図としては、告発状第1の9によって、蘭越町職員らの受託収賄罪を告発したつもりである。
  4. 倶知安警察署は、請求人に対し、「捜査している」と言うばかりで、具体的な捜査内容の一切を秘匿したので、請求人は、警察がまともな捜査をしたとは思っていない。
  5. 捜査権のない告発人(請求人)にとって、当該告発は、捜査機関に犯罪の端緒を認知させる手段であり、告発人が捜査権のある捜査機関の捜査に期待するのは当然だと思っている。しかしながら、倶知安署の桜井警部補も、札幌地検の白石検事も、告発人が犯罪の立証できなければ、起訴に至らないことが当然であるかのような論調であることに対し、請求人は当惑している。
  6. 捜査権の有無から生じる告発人と捜査機関との力の差を鑑みれば、倶知安警察署は、告発状に書かれた受託収賄という範囲に限定して捜査をするのではなく、告発状の内容から容易に推測できる加重収賄の疑いに進展して捜査するのは当然であったと思っている。
  7. 倶知安署の桜井警部補と札幌地検の白石検事が為した対応が、刑事訴訟制度を担う公務員にとって当たり前の対応なのであれば、犯罪捜査、ひいては、社会秩序に民主的理念が差し入る余地はなく、「捜査関係者による捜査関係者のための捜査」が継続することを、請求人は強く危惧している。

第3 収賄を捜査すべき理由について

  1. 蘭越町は極めて透明性が低い、
    1. 公募選定の基準や経緯はおろか、選定された企業のプロポーザル内容さえ公開しなかった。
    2. 外資系企業との譲渡過程における打合せ記録を何ひとつ残していない。
    3. 不正調査を様々な方法で妨害した。
  2. 契約条件を打合せる段階において、蘭越町の対応は、事業者毎の対応方法が著しく異なっている。
    1. 星野リゾートに対しては、提案事業が実施されない場合の蘭越町の責任について、穏当さを欠いた論調で説明した。≪告発状第4の11≫
    2. UTグループに対しては、まるで追い立てるかのような辛辣な言葉を浴びせた。≪告発状第4の19の(4))
    3. JRTに対しては、便宜供与を行った。
    1. 公有財産の譲渡において、転売禁止特約と買戻し特約があるのは当然である。
    2. 蘭越町の移住者向け住宅売買契約にも転売禁止特約と買戻し特約が存在する。≪甲223
    3. チセヌプリスキー場が収益事業であり、町の観光を左右する施設であるにもかかわらず、山内巌は、譲渡契約書から転売禁止特約と買戻し特約を削除した上で、JRTと契約した。≪甲25
    4. 山内巌は、川村弁護士からの返信記録を残しながら、山内が最初に川村弁護士に依頼した記録を公開しなかった。このことは、山内勲が計画的に転売禁止特約と買戻し特約外し、計画的に弁護士への責任転嫁を行った疑いが示されている。≪告発状第4の37から40≫
      なお、山内勲が弁護士からの返信と委任のやり取り記録を残したのに対し、スキー場の譲受人であるJRTとの打合せ記録は、何一つ残していない。≪甲184227
    5. 2018年9月5日、JRTは譲渡契約から2年を待たず、転売の意向を北海道に伝えた。≪告発状第4の52≫
    6. 金秀行と山内勲は、JRTが転売の意向を示したことを知っていながら、公募と異なるスキー場の全山貸切り運営を容認し、JRTが5億円の投資を提案したリフトの架け替えを不問とした。≪告発状第4の45~52および59≫
      このことは、当該公募の公正さを根底から覆すものであり、公募は官製談合による出来レースであった、と推定すべきである。
    7. 山内勲は転売可能な契約書を作成し、蘭越町長らはJRTのプロポーザル提案の内容を反故にした事実は、JRTに対する著しい便宜供与である。著しい便宜供与をするには、理由があり、収賄が疑われるものである。
    1. 捜査権のない請求人に収賄の証拠を得ることは極めて困難なので、収賄の証拠がないからといって、収賄を不問とするのなら、贈収賄事件に法の抑止効果が及ぶことはない、と請求人は考える。

    第4 本請求までの経過

    1. 2022年2月21日、請求人は、倶知安警察署に電話し、郵送で送る告訴状を受理するよう求めたが、電話口の刑事課桜井警部補は、理由を告げることなく、告発状の受理を頑なに拒否した。≪甲208‐1(音声全て)
    2. 2022年3月16日、請求人は、札幌地方検察庁と北海道警察本部に電話し、告発状の提出先に関する打診をし、やはり、倶知安警察署に提出することを決めた。
    3. 2022年5月16日、請求人は、作成した告訴状ドラフトを持参するためのアポイントを取るために倶知安警察署に電話した。しかし、電話口の刑事課川崎は、アポイントを拒否した。
    4. 2022年5月17日、請求人は、作成した告訴状ドラフトを持参するためのアポイントを取るために倶知安警察署に電話した。刑事課川崎が不在のため、代わりに対応した刑事課高橋に対し、告訴状を提出する担当者を刑事課川崎以外にするよう求めた。≪甲209‐1(音声全て)
    5. 2022年5月19日、請求人は、倶知安警察署を訪問し、告訴の内容を口頭で15分間ほど説明し、告訴状ドラフトを提出した。また、請求人は、正式な告訴状を提出した際には、それを受理することを強く求めた。さらに、請求人は、経済事件に対する警察の後ろ向きな姿勢を強く批判した。その上で、告訴の社会的意義と、本告訴が精密であること、警察が求めるなら、それを修正することを伝えた。≪甲210‐1(音声全て)‐2(音抜粋1)‐3(音抜粋2)‐4(‐2の反訳)‐5(‐3の反訳)
    6. 2022年5月30日、請求人は、桜井警部補に電話し、告発手続きを進めていることを蘭越町に内通しないよう釘を刺した。≪甲211‐1(音声全て)
    7. 2022年6月15日、請求人は、倶知安警察署を訪問し、桜井警部補らに対し、3回目の告発状ドラフトを提出し、約1時間にわたって、その内容を説明した。≪甲212‐1(音声全て)
    8. 2022年6月16日、請求人は、桜井警部補に電話し、告発状ドラフトの修正に関する連絡をした。また、日本の警察が経済事件を捜査しない事例を挙げ、当該告発が社会全体への抑止効果を目論んでいることを説明した。≪甲213‐1(音声全て)
    9. 2022年6月23日、請求人は、蘭越町総務課坂野に対し、蘭越町が大湯沼自然展示館をいわゆる「出来レース」で譲渡しようとしている疑いを持ちながらも、蘭越町に公募を成立させないために、告訴において蘭越町の加重収賄を援用する予定を吐露した。≪甲224‐1(音声全て)‐2(音声抜粋)‐3(反訳)
    10. 2022年7月19日、請求人は、桜井警部補の求めに応じ、倶知安警察署を訪問し、桜井警部補らに対し、告発状ドラフトの補足を説明した。≪甲215‐1(音声全て)‐2(音声抜粋)‐3(反訳)
      1. 桜井警部補は、スキー場譲渡にかかる背任罪の疑いは、時効が成立しているので、請求人がそれに代わる犯罪を考えるよう求めた。
      2. 請求人は、時効が完了していない犯罪の疑いとして、蘭越町が大湯沼自然展示館をスキー場の譲受人と同じ企業に向けて、スキー場の公募とまったく同じスキームで譲渡されようとしていることを説明した。
    11. 2023(R3)年3月27日、請求人は、桜井警部補に対し、同日付けの告発状を提出し、桜井警部補はそれを受理した。≪甲216‐1(音声全て)‐2(音声抜粋)‐3(反訳)
    12. 2023年5月16日、請求人は、桜井警部補に対し、5月15日付けの告発補充書を提出し、桜井警部補はそれを受理した。≪甲217‐1(音声全て)
    13. 2024年6月20日桜井警部補は、請求人に対し、告発状を受理扱いとしたことを連絡した。
    14. その後、倶知安署の捜査官らが、告発状等に質問をしたことは、1度もない。
    15. 倶知安署の捜査官らが、請求人に捜査状況を連絡したことは、1度もない。
    16. 請求人は、告発状提出から1年の経過を待った2024(R6)年3月25日に、桜井警部補に電話で問い合わせをした。≪甲207‐1(音声全て)、‐2(反訳)≫
      1. 桜井警部補は「捜査している」を繰り返すばかりで、何を捜査しているのかに関し、具体的な言及は一切なく、極めて不誠実な印象を受けた。そのことから、請求人は、桜井警部補が捜査をせずに時効の完成を待っていることを疑った。
    17. 2024(R6)年5月14日に、再度、桜井警部補に電話した。≪甲207‐3(音声全て)‐4(反訳)
      1. 告発人には一定の捜査状況が伝えられるべきではないか、と質問した。しかし、桜井警部補は「捜査している」を繰り返すばかりで、具体的な言及は一切なかったことから、請求人は極めて不誠実な印象を受けた。
      2. そこで請求人は、桜井警部補に対し、警察の捜査に期待をしていないので、書類を送検するよう求めた。しかし、桜井警部補は「捜査している」と繰り返すばかりで、請求人の依頼を拒絶した。
    18. さらに2カ月以上が経過した2024(R6)年7月19日、請求人は札幌地方検察庁岩内支部の検察官白石久美検事から電話をもらい、検察が不起訴処分を決定したことを知らされた。白石検事は、いくつかの告発について、時効完成の1週間前のものが含まれており、それらについては、裁判所に対し、審判所の審判に付することができるとの説明があった。
      なお、捜査の終了、および、書類送検について、請求人は、警察からは何ら連絡を受けていない。
    19. 請求人は、倶知安警察署刑事課桜井警部補および刑事課近江が何ら捜査せず、請求人の求めに応じて書類を送検することもなく、意図的に時効の直前まで、意図的に告発関係書類を留保し続けたことを疑わざるを得ない。
      なお、桜井警部補および刑事課近江の行為は、犯人蔵匿等(刑法103条)および証拠隠滅等(刑法104条)、特別公務員職権濫用(刑法194条)に抵触することが思料される。
    20. 検察が不起訴を判断は、倶知安警察署の警察官らによる上記の行為の影響を受けたものであり、正常な捜査が行われないまま、送付されたものであり、公正さを欠いている。それゆえ、請求人は本請求書を作成し、裁判所に提出する。
    21. なお、桜井警部補および刑事課近江に対しては、犯人蔵匿等(刑法103条)および証拠隠滅等(刑法104条)、特別公務員職権濫用(刑法194条)の疑いについては、別途、札幌地方検察庁に対し、告発状を提出する。

    第5 蘭越町長らに対する加重収賄の疑いについて

    1. 請求人は、告発状第1の9において、受託収賄が捜査権のない一般人には証拠を得ることが極めて困難であることについて記し、捜査機関による捜査を求めた。
    2. また、請求人は、告発状第4の49において、大湯沼自然展示館の公募が現在進行形であることも記している。
    3. 大湯沼自然展示館が、町営スキー場の譲受人たるJRTに対し、町営スキー場の譲渡と同じスキームで譲渡されようとしていた2022年6月23日、請求人は、蘭越町に公募を成立させないために、告訴において加重収賄を援用する予定を吐露した。≪甲224‐1(音声全て)‐2(音声抜粋)‐3(反訳)
    4. 大湯沼自然展示館は、公募者が現れず、蘭越町の加重収賄の証拠も失われた。
      なお、現時点においても、蘭越町は大湯沼自然展示館の公募を保留したままにしている。
    5. チセハウス跡地についても、2019年7月4日の段階で、金秀行が民間活力に開発を検討中であることを公文書に残していながら、いまだにチセハウス跡地が開発可能であることさえ町民に広報していない。≪告発状第4の53~55および58≫
    6. 以上のとおり、蘭越町長らの収賄容疑は、チセヌプリスキー場に限定されたものではなく、近接する2施設の処分にも関係している可能性が高い。また、請求人は、告発状の中でその旨の主張をしている。よって、請求人は、付審判においては、加重収賄の嫌疑で認容することを求める。

    以上